脚本『願いの果実』第3章「アドリブ オン パレード」その4
脚本『願いの果実』第3章「アドリプ オン パレード」その4
邦洋(くにひろ 20男):【配役】長者・若者
良平(りょうへい 20男):【配役】願いの木・老いた牛
浩太(こうた 20男):【配役】従者
香南(かな 19女):客として観ている。
斎藤(さいとうまじめ 20男):声のみ。アナウンス部員。
迷子(えぐちあきら 5男):声のみ。文化祭の途中、迷子になった。
岩上(いわがみりょう 42男):声のみ。迷子の父親。
暗転中、ピンポンパンポーンと学内放送が鳴る。
斎藤(声)「迷子のお知らせです。5歳の、エグチアキラくんという男の子をお預かりしています。保護者の方は、A棟2階アナウンス部室までお越しください」
照明がつく。
木は無い。浩太(従者)が倒れている。
浩太が起き上がると、手に、桃をにぎりしめている。
浩太(従者)「あれ、この桃は・・・長者様、長者様!」
良平(牛)「ンモ~」
良平が現れる。
斎藤(ナレ)「牛は、長者の車をひいてきた牛でした。車は雷が落ちて真っ黒に焼け焦げています」
浩太(従者)「なんてことだ、長者様の車がこんなことに。しかし、牛が無事とは、何たる奇跡!どこにも、傷を負っていないようだが」
良平(牛)「ンモ~、こそばゆい」
浩太(従者)「え」
良平(牛)「あんまり体を撫でまわさんでくれんか。こそばゆくなるからモ~」
浩太(従者)「牛が話した?まさか、さっきの雷で」
良平(牛)「あ~のどがかわいた。水を飲みたい。これ、あんた。水くれんかモ~」
浩太(従者)「信じられないが、本当らしい。待て、今、川に連れていってやろう」
浩太(従者)、良平(牛)を連れて歩く。
斎藤(ナレ)「従者は、牛を近くの川に連れていき、水を飲ませようとかがみました」
迷子(声)「ね~。ママ、まだ来ないよ。もう一回、放送してよ」
良平(牛)「虫がうるさいモ~」
邦洋(長者)「や~ボク、拙者と遊ぶでありんすよ」
邦洋の声が響き渡る。
迷子(声)「わーい、おもしろいお兄ちゃんだ。ピエロみたーい」
邦洋(長者)「ほうれ、ほれほれ」
浩太(従者)「長者様の声。もしや近くに」
邦洋(長者)「ママが来るまで、近くで遊ぶでありんす。来たら連絡を」
迷子(声)「ね~もう一回、やって~」
邦洋(長者)「ほうれ、ほれほれ」
迷子の笑い声が遠ざかる。
浩太(従者)「長者様!長者様~!」
良平(牛)「あ~、川の水はうまいモ~」
浩太(従者)「やはり長者様だ。飲み終えたら長者様を探しに行きましょう」
斎藤(ナレ)「そのとき、従者の手から、桃が落ちてしまいました」
浩太(従者)「あ、しまった。おいしそうな桃だったのに」
良平(牛)「モ~ったいない、どんぶらこと流れていったモ~」
浩太(従者)「この川を下ると、わたしの故郷があるんです」
良平(牛)「故郷?あんたはよそで育ったのかい」
浩太(従者)「はい。わたしはみなしごでしてね。おばあさんに拾われたんです」
良平(牛)「ほお。ええ話の予感がするの」
浩太(従者)「おばあさんは悪い人ではありませんでしたが、料理の腕がひどくて。きび団子なんて、食えたもんじゃありませんでした」
良平(牛)「きび団子とな」
浩太(従者)「ああ、あのきび団子。においはいいが、食べたら最後、三日三晩苦しむことになるんです。犬と猿ときじに食わせたことがありましたが、もう、のたうち回って、犬はそこらじゅうに噛みつくわ、猿は苦しみ悶えて引っかくわ、きじはつっぷして倒れる始末」
良平(牛)「おかしいモ~。黍で作った団子なのにモ~」
浩太(従者)「いや、おばあさん、何を思ってか、団子にシキミをすりつぶして入れていたらしいんです。シキミは猛毒。初めはシキミ団子と言っていましたが、みんな食べるのが厳しいんで、キビシイ団子、キビ団子になったんです」
良平(牛)「それでキビ団子とは。しかし、おばあさんは自分で食べて何とも無いのかモ~」
浩太(従者)「おばあさんは頑丈でしたから。村では、正体は鬼じゃないかと怖れられていたんですよ」
良平(牛)「鬼とな」
浩太(従者)「ほがらかな笑顔で毒の団子を作るものですから、みんな参っていましたよ」
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