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お菓子で小説シリーズの記事 (8)

皐月うしこ 2019/05/05 11:00

お菓子で小説シリーズ「源氏パイ」

こんにちは、皐月うしこです。
Twitterや他の活動で作成した作品をこちらでストック。

「お菓子で小説」シリーズ
(1話300文字ほど)

お題「源氏パイ」

朝礼も無事に終わり、さあ朝の仕事を始めようかと気合を入れたところで、とても面倒くさい客に当たったことなど誰に文句が言えただろうか。説明をしても通じない。簡単に噛み下した言い方をしても伝わらない。聞き役に徹すること数時間、ようやく納得して笑顔でサヨウナラを告げるころにはお昼の時間になっていた。

「まじ、疲れた」

昼食のお弁当を持って同僚と過ごせるわずかな時間。こんな日は、午後も大抵ろくなことがおこらない。歯車はいつだってそういう風に出来ているのだ。

「まあまあ、そう言いなさんな」

茶化したようにお茶を差し出してくるかと思いきや、その手には久しぶりにみた源氏パイ。

「インスタ映えの写真でもこれで撮りなよ」
「いや、私インスタやってないし」

他愛のない会話に救われる。口の中に広がる甘さが、午後からの仕事も前向きに変えてくれそうだった。

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皐月うしこ 2019/05/04 11:00

お菓子で小説シリーズ「ルマンド」

こんにちは、皐月うしこです。
Twitterや他の活動で作成した作品をこちらでストック。

「お菓子で小説」シリーズ
(1話300文字ほど)

お題「ルマンド」

サクサク、サクサク。一定の可愛らしい音が聞こえてきたと思った瞬間、思わず彼女の顔を見て笑ってしまったのは、本当に申し訳ないと思っている。

「口の周りにいっぱいついてるよ」

アリであれば、喜んでその唇に群がっていくだろうに、残念ながらここにアリは存在しない。仲良く並んで帰る下刻途中で立ち寄ったコンビニのイートイン。お菓子コーナーに売っていた定番の袋を手に持って、彼女は嬉しそうに笑顔だったから特に気にもしていなかった。

「ちょっと、もう笑いすぎー」

そういって、また二人して笑い合う。あと何日、こうして一緒の時間を過ごすことが出来るのか。今はまだ、未来のことを考えないでどうかこのまま。時間が止まればいいのに。

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皐月うしこ 2019/05/03 11:00

お菓子で小説シリーズ「雪の宿」

こんにちは、皐月うしこです。
Twitterや他の活動で作成した作品をこちらでストックしていこうと思います。

「お菓子で小説」シリーズ
(1話300文字ほど)

お題「雪の宿」

台所のお菓子コーナーに、いつも決まってストックしてある定番のお菓子がある。

「おばあちゃんってこれ、好きだよね」

何気なくそう口にしてみたら「そりゃね」と嬉しそうな声と共に、祖母は台所まで歩いてくる。「おじいちゃんと初めて一緒に食べたのがこの雪の宿なんだよ」と、懐かしむように手にとってパキンとふたつに割ると、袋をあけて割れた欠片を差し出してくれた。

「それで、甘い面を上にするか下にするかで喧嘩したんでしょ?」
「そうそう」

何度も聞いた祖父母の馴れ初め。けれど、いつまでも飽きない味につられて、やはり手が伸びてしまうものらしい。

「それで?」

懐かしむ祖母と同じ味を口に含みながら、あの頃の祖父の視界を想像した。

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